負け犬賛歌〜『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)

失敗のクィアアート 反乱するアニメーション 作者:ジャック・ハルバースタム 岩波書店 Amazon 最近、↑こちらの本を読みながら、扱われている作品を観ていっているのですが、最初に論じられる『リトル・ミス・サンシャイン』、観ていなかったか、観ても忘れて…

移民第3世代映画の幕開け?〜『ポライト・ソサエティ』(2024)【試写】

www.youtube.com 8月23日公開のこちらの試写を。 イギリス映画にとっては移民第2世代物語というのはもはやひとつのジャンルと言ってもいいと思います。最近はそれはハリウッドにも浸透してきていますが(『エブエブ』や『ミズ・マーベル』)、時代を考えると…

異人種バディものの運命〜『グリーンブック』(2018)

ゼミでの学生の発表のお題を、公開時以来観ました。 この作品はやっぱり、当初から出ていた批判の通り、白人の疚しさを解消する映画ですよね。ドン・シャーリーが音楽的にも人物的にも、白人社会から排除されるのはもちろん黒人性からも疎外されているところ…

クィア+青春映画の功罪〜『ファンフィク』(2023)

『ファンフィク』はNetflix配信のポーランド映画。マルタ・カルヴォフスカ監督。 LGBTQ+学園もの、などと「箱」に入れるのはどうなんだろうと思うものの、一応そのように紹介できる映画です。主人公のトシアが自分の苦しみの原因が性別違和であることに気づ…

人間中心主義と差別的読解〜『LAMB/ラム』(2021)

監督のヴァルディマル・ヨハンソンは『ローグ・ワン』の特殊効果を担当していたそうで、これが監督デビュー作。 アイスランドの厳しい自然の中で牧畜業を営むマリアとイングヴァルの夫婦だが、ある日、頭と右半身が羊でそれ以外が人間という獣人が生まれる。…

『関心領域』(2023)

マーティン・エイミスの同名小説を原作にジョナサン・グレイザー脚本・監督で。第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞ということで鳴り物入り。 エイミスの原作、途中まで英語で読んだ中途半端…

『マッドマックス:フュリオサ』(2024)

【ネタバレ注意】 ということで、楽しみにしていた『フュリオサ』です。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でシャーリズ・セロンが見事に演じたフュリオサの前日譚をアーニャ・テイラー・ジョイが演じました。『怒りのデス・ロード』はエコロジカル・フ…

安心するB級の香り〜『アトラス』(2024)

しばらく、というか一ヶ月ご無沙汰してしまいました。 この間、なんだか流行っている変な風邪に感染して一度は声が全く出なくなり、二週間を棒に振り、治ったと思ったら(多分)ウイルス性胃腸炎で倒れ、五月の記憶がありません。 と言いつつ、この一ヶ月は…

「社会派映画」の作り方〜『悪は存在しない』(2024)

濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』以来の長編で、ヴェネツィアで銀獅子賞を取ったということで鳴物入りですが、全く裏切ることのない素晴らしい映画でした。 まずは映画美学的なところで凄く評価されるんだろうなと思っていたらすでにそのような映画評…

『マリウポリの20日間』(2023)【試写】

synca.jp 4月26日公開のこちらの試写、覚悟を持って、観ました。 ウクライナ出身のAP通信ジャーナリスト、ミスティスラフ・チェルノフが、2022年2月、ロシアが侵攻を開始したウクライナのマリウポリに入り、ロシアが街を爆撃し、迅速に占領し、チェルノフら…

自分のやりたいこととできることは一致しない〜『カラオケ行こ!』(2024)

劇場で見逃し、早速配信で。 合唱部の部長の岡聡実くんが、ひょんなことから、極道者の成田狂児にカラオケに誘われ、組のカラオケ大会に向けて歌のレッスンを頼まれるという荒唐無稽だけれども二人の奇妙な友情がなんともジワジワ来る映画。面白かったのです…

落ち穂拾い〜『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)

なんとなく、周辺情報から敬遠してしまって見損ねていた作品を落ち穂拾い。でも、『チャーチル』は分かるけど、『ソーホー』をなぜ敬遠したかは謎。謎なんだけど、勘は正しいというか、いずれもそれぞれの意味で、どうもな〜、な作品でした。 『ウィンストン…

男性性と障害〜『君と宇宙を歩くために』

マンガ大賞2024は泥ノ田犬彦さんの『君と宇宙を歩くために』が受賞しました。おめでとうございます。 このマンガは、現代の男性性を考える上でとても重要な作品だと感じています。行動をすべて、彼が「テザー」(宇宙遊泳の際の命綱)と呼ぶノートにメモして…

メガネっ娘と社会的記憶〜『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2021)

ということで、なぜか公開中の『フローズンサマー』ではなく、これを。というか観ていなかったので。 期待以上によかったですが、まあとにかくマッケナ・グレイス演じるフィービーのキャラが全てを持って行った映画ですね。もちろん再集合で燃えるべきなんで…

ひどい映画の効用〜『The Son/息子』(2023)

フローリアン・ゼレールの監督デビュー作『ファーザー』は本当にすばらしいと思ったので、これも当然観ているべきなのですが、なぜか嫌な予感がして敬遠したままになっていたところ、最近複数の人に「観ていないの」と言われたのでやっと観ました。私の勘は…

『闇の奥』についてのメモ

昨日は職場の主催のシンポジウムで帝国主義・植民地主義をめぐる5時間+懇親会。大変に濃密でした。 その中で、中井亜佐子さんが『闇の奥』と採取/採掘主義(extractivism)についてお話をされていて、最近考えていたことにとても強く響いたのでメモ。 中井…

『ハイキュー!!』についての暫定的メモ

どうも映画が公開中の『ハイキュー!!』が気になり始め、とりあえずアニメ版を見始めてますが、これは(昨日ちょうど日本スポーツ社会学会のシンポジウムでテーマになった)スポーツと男性性の表象という意味でとても重要な作品かもしれないと思い始めてま…

『デューン 砂の惑星PART2』(2024)

原作からデヴィッド・リンチ版と、思い入れの強い作品なので色んな先入観が介在するのですが、ともかくも公開日にIMAXで。IMAX必須。 ヴィルヌーヴ作品って、美しくて完成度が高いけど(そうであるがゆえに)、表面がツルツルでひっかかりがない印象があり、…

猫の逆襲〜『ARGYLLE/アーガイル』(2024)

『枯れ葉』『落下の解剖学』と、犬映画の攻勢が強まっていた昨今ですが、ついに猫映画の逆襲です。というわけで『アーガイル』。 『キングスマン』シリーズのスピンオフですが、私は本シリーズの方は一作目はとても好きなのですがその後はぱっとしないな、と…

犬の年〜『落下の解剖学』(2023)

猫派の私としては複雑な気分ですが、立て続けに素晴らしい犬映画が公開されました。『枯れ葉』に続いて、『落下の解剖学』の盲導犬スヌープ。最高。 というわけで、パルム・ドールとパルム・ドッグをダブル受賞したジュスティーヌ・トリエ監督の『落下の解剖…

『ボーはおそれている』(2023)

この映画についてはこの後映画評を書くので、肝心なことは書きませんが、私、ホラー映画は怖いので好きではなく、アリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』も『ミッドサマー』もそんなに好きではない、というか『ミッドサマー』なんて『ウィッカーマン…

『アメリカン・フィクション』(2023)

しばらく諸々で忙しすぎて映画館に行く暇もなければ家で映画を見る暇もなかったのですが、そんな合間にこちらを。 黒人の作家が、自分の純文学指向をかなぐり捨てて、おふざけで書いた「黒人的」小説──白人たちが期待するような「黒人的」内容の小説──が大ヒ…

猫依存〜『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016)

2月22日はニャンニャンニャンの猫の日ということで、何か猫関係の映画を観たいなと思ってこちら。ベストセラー本となった実話を元にした映画です。 ロンドン。麻薬常習者のホームレスのジェームズはなんとか更生しようと苦闘している。ソーシャルワーカーの…

『枯れ葉』(2023)

カウリスマキ監督の「復帰」作。観なきゃ観なきゃと思ってて気づけば終わりそうなので慌てて。 昨日あたりからなぜかメンタルが落ちてたんですが、1時間20分のこの短めの映画を観終わって、すっかり気分が晴れている自分に気づきました。不思議。そんなに「…

「原作に忠実」とは〜うずめ劇場『地球星人』

村田沙耶香の『地球星人』の舞台化ということで、観てきました。 とにかく原作に忠実に作っていくという意思が見られ、その妥協のなさが3時間半という上演時間にもつながっているのですが、その長さを感じさせないテンポのよい芝居でした。ただし、「忠実」…

リアリティ番組とデスゲームものの彼岸〜『ロブスター』(2015)

『哀れなるものたち』で話題沸騰?のヨルゴス・ランティモスの初英語作品。未見でした。 私、近著(『はたらく物語』『正義はどこへ行くのか』)でリアリティ番組とデスゲームものについてそれぞれ論じたのですが、その二つの関連性をしっかり論じられていな…

『夜明けのすべて』(2024)

『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督の新作。 前作と同様に素晴らしい傑作でした。途中、どこで終わっても自然に感じるだろうけれども、同時にいつまでも続いて欲しい時間。そして彼らの生活はエンドロールの後にもずっと続いていくのだろう(全ては変転す…

『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(2023)

ダンジョンズ&ドラゴンズ、確か中学生のころにプレーしてて、『ロードス島戦記』とか『ドラゴンランス戦記』とか、スピンオフの小説も夢中になって読んでました。 ということで今回の映画化は気になっていたのですが、コロナ明けでようやく公開されたのをよ…

中井亜佐子『エドワード・サイード──ある批評家の残響』(書誌侃侃房、2024)

エドワード・サイード ある批評家の残響 作者:中井亜佐子 書肆侃侃房 Amazon 著者とのトークイベントが控えているので、詳しくはその時に話したいとは思いますが、一周目を読了して、これは早く多くの人にお勧めしたくてちょっと書いておきます。 没後20年の…

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)

『ジョン・ウィック』は第一作以降はもういいやと思っていたのだけど、卒論の口頭試問など終わって疲れ果て、何も考えなくていいものを観たいと思って放映。 結局、『ジョン・ウィック』シリーズというのは組織を抜けて仕事を辞めたいのに巻きこまれ続けて辞…