『マリウポリの20日間』(2023)【試写】

synca.jp 4月26日公開のこちらの試写、覚悟を持って、観ました。 ウクライナ出身のAP通信ジャーナリスト、ミスティスラフ・チェルノフが、2022年2月、ロシアが侵攻を開始したウクライナのマリウポリに入り、ロシアが街を爆撃し、迅速に占領し、チェルノフら…

自分のやりたいこととできることは一致しない〜『カラオケ行こ!』(2024)

劇場で見逃し、早速配信で。 合唱部の部長の岡聡実くんが、ひょんなことから、極道者の成田狂児にカラオケに誘われ、組のカラオケ大会に向けて歌のレッスンを頼まれるという荒唐無稽だけれども二人の奇妙な友情がなんともジワジワ来る映画。面白かったのです…

落ち穂拾い〜『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)、『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)

なんとなく、周辺情報から敬遠してしまって見損ねていた作品を落ち穂拾い。でも、『チャーチル』は分かるけど、『ソーホー』をなぜ敬遠したかは謎。謎なんだけど、勘は正しいというか、いずれもそれぞれの意味で、どうもな〜、な作品でした。 『ウィンストン…

男性性と障害〜『君と宇宙を歩くために』

マンガ大賞2024は泥ノ田犬彦さんの『君と宇宙を歩くために』が受賞しました。おめでとうございます。 このマンガは、現代の男性性を考える上でとても重要な作品だと感じています。行動をすべて、彼が「テザー」(宇宙遊泳の際の命綱)と呼ぶノートにメモして…

メガネっ娘と社会的記憶〜『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2021)

ということで、なぜか公開中の『フローズンサマー』ではなく、これを。というか観ていなかったので。 期待以上によかったですが、まあとにかくマッケナ・グレイス演じるフィービーのキャラが全てを持って行った映画ですね。もちろん再集合で燃えるべきなんで…

ひどい映画の効用〜『The Son/息子』(2023)

フローリアン・ゼレールの監督デビュー作『ファーザー』は本当にすばらしいと思ったので、これも当然観ているべきなのですが、なぜか嫌な予感がして敬遠したままになっていたところ、最近複数の人に「観ていないの」と言われたのでやっと観ました。私の勘は…

『闇の奥』についてのメモ

昨日は職場の主催のシンポジウムで帝国主義・植民地主義をめぐる5時間+懇親会。大変に濃密でした。 その中で、中井亜佐子さんが『闇の奥』と採取/採掘主義(extractivism)についてお話をされていて、最近考えていたことにとても強く響いたのでメモ。 中井…

『ハイキュー!!』についての暫定的メモ

どうも映画が公開中の『ハイキュー!!』が気になり始め、とりあえずアニメ版を見始めてますが、これは(昨日ちょうど日本スポーツ社会学会のシンポジウムでテーマになった)スポーツと男性性の表象という意味でとても重要な作品かもしれないと思い始めてま…

『デューン 砂の惑星PART2』(2024)

原作からデヴィッド・リンチ版と、思い入れの強い作品なので色んな先入観が介在するのですが、ともかくも公開日にIMAXで。IMAX必須。 ヴィルヌーヴ作品って、美しくて完成度が高いけど(そうであるがゆえに)、表面がツルツルでひっかかりがない印象があり、…

猫の逆襲〜『ARGYLLE/アーガイル』(2024)

『枯れ葉』『落下の解剖学』と、犬映画の攻勢が強まっていた昨今ですが、ついに猫映画の逆襲です。というわけで『アーガイル』。 『キングスマン』シリーズのスピンオフですが、私は本シリーズの方は一作目はとても好きなのですがその後はぱっとしないな、と…

犬の年〜『落下の解剖学』(2023)

猫派の私としては複雑な気分ですが、立て続けに素晴らしい犬映画が公開されました。『枯れ葉』に続いて、『落下の解剖学』の盲導犬スヌープ。最高。 というわけで、パルム・ドールとパルム・ドッグをダブル受賞したジュスティーヌ・トリエ監督の『落下の解剖…

『ボーはおそれている』(2023)

この映画についてはこの後映画評を書くので、肝心なことは書きませんが、私、ホラー映画は怖いので好きではなく、アリ・アスター監督の『ヘレディタリー/継承』も『ミッドサマー』もそんなに好きではない、というか『ミッドサマー』なんて『ウィッカーマン…

『アメリカン・フィクション』(2023)

しばらく諸々で忙しすぎて映画館に行く暇もなければ家で映画を見る暇もなかったのですが、そんな合間にこちらを。 黒人の作家が、自分の純文学指向をかなぐり捨てて、おふざけで書いた「黒人的」小説──白人たちが期待するような「黒人的」内容の小説──が大ヒ…

猫依存〜『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016)

2月22日はニャンニャンニャンの猫の日ということで、何か猫関係の映画を観たいなと思ってこちら。ベストセラー本となった実話を元にした映画です。 ロンドン。麻薬常習者のホームレスのジェームズはなんとか更生しようと苦闘している。ソーシャルワーカーの…

『枯れ葉』(2023)

カウリスマキ監督の「復帰」作。観なきゃ観なきゃと思ってて気づけば終わりそうなので慌てて。 昨日あたりからなぜかメンタルが落ちてたんですが、1時間20分のこの短めの映画を観終わって、すっかり気分が晴れている自分に気づきました。不思議。そんなに「…

「原作に忠実」とは〜うずめ劇場『地球星人』

村田沙耶香の『地球星人』の舞台化ということで、観てきました。 とにかく原作に忠実に作っていくという意思が見られ、その妥協のなさが3時間半という上演時間にもつながっているのですが、その長さを感じさせないテンポのよい芝居でした。ただし、「忠実」…

リアリティ番組とデスゲームものの彼岸〜『ロブスター』(2015)

『哀れなるものたち』で話題沸騰?のヨルゴス・ランティモスの初英語作品。未見でした。 私、近著(『はたらく物語』『正義はどこへ行くのか』)でリアリティ番組とデスゲームものについてそれぞれ論じたのですが、その二つの関連性をしっかり論じられていな…

『夜明けのすべて』(2024)

『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督の新作。 前作と同様に素晴らしい傑作でした。途中、どこで終わっても自然に感じるだろうけれども、同時にいつまでも続いて欲しい時間。そして彼らの生活はエンドロールの後にもずっと続いていくのだろう(全ては変転す…

『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』(2023)

ダンジョンズ&ドラゴンズ、確か中学生のころにプレーしてて、『ロードス島戦記』とか『ドラゴンランス戦記』とか、スピンオフの小説も夢中になって読んでました。 ということで今回の映画化は気になっていたのですが、コロナ明けでようやく公開されたのをよ…

中井亜佐子『エドワード・サイード──ある批評家の残響』(書誌侃侃房、2024)

エドワード・サイード ある批評家の残響 作者:中井亜佐子 書肆侃侃房 Amazon 著者とのトークイベントが控えているので、詳しくはその時に話したいとは思いますが、一周目を読了して、これは早く多くの人にお勧めしたくてちょっと書いておきます。 没後20年の…

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)

『ジョン・ウィック』は第一作以降はもういいやと思っていたのだけど、卒論の口頭試問など終わって疲れ果て、何も考えなくていいものを観たいと思って放映。 結局、『ジョン・ウィック』シリーズというのは組織を抜けて仕事を辞めたいのに巻きこまれ続けて辞…

『かづゑ的』(2024、試写)

熊谷博子監督の新作『かづゑ的』の試写を拝見。 岡山のハンセン病療養所長島愛生園の元患者宮﨑かづゑさんにレンズを向けつづけた8年間。岡山の山間部に生まれたかづゑさんは、10歳で発症し長島愛生園に入所します。以降80年間、彼女はそこで暮らしてきまし…

『哀れなるものたち』(2023)

元々スコットランドの作家アラスター・グレイの原作(大学院の指導教官による翻訳)に親しんでいたのもあって楽しみにしていたところ、大変な前評判なのでいてもたってもいられず、先行上映に。 外科医ゴドウィン・バクスターが自殺した女性の脳に、彼女のお…

『罪の声』(2020)/『母性』(2022)

この二本をまとめるのは、単に今日のゼミで学生が発表の対象作品に選んだから、ということではあるのですが、学生運動が歴史的な背景になっているのが偶然にも共通してました。私は別に当時の学生運動を擁護したくもないですが、このように物語的に使われた…

『Saltburn』(2023)

突然ですが、ずっと放っておいたこのブログ、ちょっと復活させてみようと思います。読んだ本や観た映画など、そのままにしていてももったいないというか、これまではTwitter(現X)をほとんどメモ代わりにしていたのですが、もう少しまとまった感想をメモし…

河野のウェブ上の文章まとめ

エントリー自体は古いですが、最新にアップデートしていきます。媒体の順番は、なんとなく最近書き始めたものが上に来てますので順不同。 ◆NHK番組レビュー「きのう何みてた?」 笑うべきか泣くべきか、それが問題だ 土曜ドラマ「今ここにある危機とぼくの好…

第70回新自由主義研究会

次回も研究発表になります。下記の要領で開催します。参加自由です。ご参集ください。 第70回新自由主義研究会 日時:2019年9月21日(土)15:00〜 場所:専修大学神田校舎7号館8階782室 発表者:janis タイトル:金融の〈監視〉と情報伝達技術 (ICT) 労働

第69回新自由主義研究会

次回は久々に研究発表です。というか、私がやります。ご参集! 第69回新自由主義研究会 今回は、河野の研究発表です。拙著『戦う姫、働く少女』を出版して2年、おかげさまで広く読まれて色々なリアクションをいただいてきております。 研究会では、その『戦…

第68回新自由主義研究会

次回は、専修大学が使えなかったので早稲田大学での開催となります。ご注意を! 第68回新自由主義研究会 日時:2019年7月14日(日)15:00〜 場所:早稲田大学3号館3-708演習室 http://www.waseda.jp/student/koho/15_campusmap_2019.pdf テクスト:Sophie Le…

第67回新自由主義研究会

次回新自由主義研究会です。Time managementとknowledge economyとの関係、「生産性」の概念の登場、など。 第67回新自由主義研究会 日時:2019年6月23日(日)15:00〜 場所:専修大学神田校舎7号館773教室 テクスト:Melissa Gregg, Counterproductive: Tim…