人間中心主義と差別的読解〜『LAMB/ラム』(2021)

監督のヴァルディマル・ヨハンソンは『ローグ・ワン』の特殊効果を担当していたそうで、これが監督デビュー作。

アイスランドの厳しい自然の中で牧畜業を営むマリアとイングヴァルの夫婦だが、ある日、頭と右半身が羊でそれ以外が人間という獣人が生まれる。二人は、かつておそらく事故で死んでいた娘の名前(アダ)をその獣人に与え、育て始める。そこにイングヴァルの弟ペートゥルがやって来て……。

とまあ、いかにも象徴的解釈を誘う映画ですが(アダを障害者として読むという、結構危険な読み方とか、核家族的なものの「幸福」のイデオロギー批判とか……)、結構字義通りに読むべきなのかもしれないとも思いました。つまり、【以下ネタバレ】最後は黒い羊人間(おそらくアダの父)がアダを取り戻しに来てイングヴァルを殺害するのですが、これは単に、アダを「人間」の側に引き入れて人間として育てようとする(そのために母羊は殺害する)人間中心主義の批判だ、というふうに。

ホラー映画やゾンビ映画を象徴的に、寓話として読むと、性差別や障害者差別的なものを引き寄せてしまいがちです。そのような読み自体が実は人間中心主義的であって、そんな場合にはまず文字通りに読んでみる努力が必要なかもしれません(少し、『悪は存在しない』も想起)。