猫依存〜『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016)

2月22日はニャンニャンニャンの猫の日ということで、何か猫関係の映画を観たいなと思ってこちら。ベストセラー本となった実話を元にした映画です。

ロンドン。麻薬常習者のホームレスのジェームズはなんとか更生しようと苦闘している。ソーシャルワーカーのヴァルはこれが最後のチャンスだと感じてジェームズに住居を見つける。そのフラットに迷いこんできた野良猫(ボブ)が、ストリートミュージシャンであるジェームズに思わぬ幸運をもたらす、というお話。

まず、イギリスでのホームレスの問題というのは深刻の度合いを減らすどころか増している状況。この映画が公開された2016年は私はちょうどサバティカルでイギリス(ウェールズ)にいましたが、都市部(そんなに大都市である必要はない)のホームレスは日常的に目にするし、ホームレスに余ったサンドイッチをあげるといったこの映画でも描かれる行為も普通に見られました。

ホームとホームレスネスをめぐる映画といえばやはりまずはケン・ローチで、古くは『キャシー・カム・ホーム』がありますし、『SWEET SIXTEEN』も「家」が重要な役割を果たします。最近ではイギリスではなくアイルランド映画ですが『サンドラの小さな家』がありました。アイルランドも住宅問題がひどいことになってますね。

日本も不動産バブルが起こっていますが、バブルで金融資本家たちが沸きかえる中、住む場所を失う人たちが出るという、アイルランドやイギリスで起こっていることが日本でもこの後激化するかもしれません。

で、映画ですが、どうしても気になるのは、ジェームズはストリートパフォーマンスや、『ビッグイシュー』販売で成功するのですが、それが全部猫のおかげで、誰も彼の歌を聴いてないし、『ビッグイシュー』の中身に興味があるわけではないという点です。

しまいにはジェームズは、薬物依存からは脱するけど猫依存になっていないか? と心配になりました。ボブが姿を消した時のジェームズは薬を断ったジャンキーそのものです。

しかしその一方で、あらゆる依存を断たなければならないという考え方も退けるべきでしょう。私たちは多かれ少なかれ依存的にしか生きられない。いかなる相互依存の社会を作るかということ、どのように依存しないかではなく、どのようにうまく依存し合うかが鍵だと思うのです。その意味で、ジェームズが薬物依存から猫依存になったというのは、まったく問題ないどころか歓迎すべき事態なのでしょう。この映画は私たちの社会が猫依存社会であることを鋭く指摘しているのかもしれません(?)。(でも、猫映画をいくつか考えてみても、猫が社会の裏側で人間を支えている的なのは多いような。)