ららら空想の子

 『ららら……』について投げやりな感想を書いた後、これは単につまらないのではなく、自分にとって積極的に不快なのだと思い始める。

 「想定された読者」というはぐらかした書き方をしたが、この小説は明らかに「左翼」知識人に売るために書かれている。そこが、臭うのだ。

 全共闘の「亡霊」として日本に帰ってくる主人公、しかしそこで「ホーム」は失われていることを発見、しかも文字通りの彼の自宅の地上げに、運動家時代の友人が関わっていて、紆余曲折の後には「今いるところが家」というようなディアスポラ的悟りに至り……と、まあ、左翼知識人と自己規定している一定以上の年代の人間は、よろこびそうなネタをちりばめているという感じ(そのように感じてしまうのは、経験に基づいた私の感性が共感を拒んでいるからとしか言いようがない)。

 いや、それだけではあるまい。おそらく、あの政治の季節を通り抜けて転向した人たちも同時によろこぶような内容なのではないか。

 ぜひこの小説にやってほしかったことは、この「亡霊」たる主人公を正しく「埋葬」することなのだが、ラストはそうなってない。そこが不満だったのだろう、私には。