普通の水曜日。といっても会議がないのが救い。
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業界的には必見みたいな空気だが、観ていなかった。
なるほど、おいしい。教育的に、非常に使いやすい。人種、ジェンダー・セクシュアリティの問題への入り口として。
しかし、問題は階級。ジェスの一族は明らかに富裕層であり(家や車でそれはいかんなく誇示される)、実のところ主要な登場人物のうち、もっとも階級が低いのはヒーローのジョー(アイルランド人で、怪我でプロフットボーラーの道を断たれる人物)ではないかと推測される。「労働者階級のスポーツ」としてのフットボールという側面は、徹底的に抑圧されていると言って良い。
だが、それ自体を問題とするよりも、例えば「女性の教養小説」的なものの一ヴァージョンとして見ると面白いかもしれない。『ジェイン・エア』的な、階級上昇物語としての女性の教養小説の伝統と比したとき、『ベッカムに恋して』では、ジェスの「ビルドゥンク」が、階級の上昇どころか、落伍のリスクを伴うものになっている(でも、そのリスクは、アメリカ行きが単なるプロデビューではなく、奨学金つきの大学への留学という形をとることによって無化されているのだが)。というかむしろ、そのようなリスクを背負い込むことこそが自己実現の構成要素となっている。
たとえば、まったく違う物語にすることも可能だったろう。出稼ぎ貧困階級のインド系イギリス人の娘が(という時点で、実のところあまり「典型」にならないのかもしれないが)、ベッカムを志し、階級上昇と自己実現を同時になしとげるというような。
これだと、現代的には全然おもしろくないことは明白だが、それがなぜ「おもしろくない」と感じられるのか、そこが鍵になりそうだ。
あ、これ、今年のゼミのネタとして十分だな。『ジェイン・エア』→『サルガッソーの広い海』→『ベッカムに恋して』。ていうか、『サルガッソー』までは着任一年目にやって大惨事になったはずじゃないか。『サルガッソー』が躓きの石だな。