ハクロン

 という名のお化けにとりつかれ続けている。

 私は英文学など専攻しながら今どき「留学なし、博論なし」という二重苦で就職先を見つける(それも公募で)という偉業をなし遂げた者であり、それに対して歪んだ矜恃を抱いているが(いや、外国文学の研究者を目指している人がこれを読むことがあったらいけないので、念のため言っておくが、そんなものは狙ってやるべきことではない。「留学して博士号取れ。話はそれからだ。」という趨勢に、良かれ悪しかれ確実になってきている。留学する経済的その他の余裕がないなら、この業界は止めた方がいい)、この次に狙うべき称号は「双子を育てながら博論を書いた」である。でもタイムリミットはあと一年半。無理。絶対無理、無理、無理。

 ……という強迫観念にだけとらえられて過ごしてきたのであるが、ここのところなんだかひとつの「ブレイクスルー」が訪れつつあるような気がして(たぶん気のせい)、自分が過去に書いたもの、しゃべった原稿を読み返している。赤面しながら。私は飽きっぽいので、研究テーマ、アプローチがどんどん変わっていると思いこんでいたのだが、こうやって読み返すと、通底するものがあるじゃないか。まとめたら、博論になるじゃないか、と危険な躁状態に入りつつある。いける。これはいける!

 ……という躁状態の後には必ず鬱状態が待っているので、その予感にすでにして身がすくんでいるわけだが。*1「ディプロマ・ミル」*2スパムメールを思わずガン読みしてしまう今日この頃。

*1:という自分の記述を読んで気づいたのであるが、鬱状態を引きおこす原因のひとつには「鬱状態になるのではないかという予感」がある。予言の言葉そのものがその予言の内容を実現する。

*2:大学業界以外の人がこれを読んで、「はあ〜、ディプロマ・ミルっていう抗うつ剤があるのか」と誤解をするといけないので付記するが、ディプロマ・ミルdiploma millとは「学位工場」、教育をろくに、もしくは全く行わずに学位を金で売る教育・研究機関のことである。