小公女

A Little Princess (Penguin Popular Classics)

A Little Princess (Penguin Popular Classics)

 ゼミは卒業論文の発表。で、おそらくまともに原作を読んだことがなかった『小公女』を読む。

 あまりにもあからさまな歴史性を持った作品である。

 主人公のサラは、インドで植民地経営をしているらしいクルー大尉の娘。ロンドンの寄宿舎に入り、そこで典型的な抑圧的女性教師のミンチン先生を、その子供離れした能力でやりこめ、人望を集める。しかし父親がインドで死去。サラは「公女」から一転「乞食」へと転落。寄宿舎で辛酸をなめる。しかし、隣に引っ越してきたインド人(ターバンを巻いて、サルを連れた……)ラム・ダスが、父親とインドのダイヤモンド鉱山開発の共同経営者であり、サラを探しに来ていたことが判明。サラは巨万の富を手に入れ、ラム・ダスの養子となって、一件落着。

 この作品が発表されたのは1905年。バーネットは基本的には「アメリカ文学」の作家であるが、出身はイギリスであり、この作品もイギリスが舞台。

 とまあ、これだけの情報ですべて明らかなので、改めて解説するのも野暮というものだが、セポイの乱に始まる19世紀後半から20世紀初頭のインド独立運動の激化、一方でボーア戦争という帝国主義戦争(とそのコスト)を背景として、特に20世紀初頭のインドに関して、イギリスはその行政をインド人の手に(といっても19世紀後半にイギリスがつくり出した支配階級に)ゆだね始めていた。

 インドでのサラの父親の死→植民地喪失への不安
 ラム・ダスによるサラの救出→インド支配階級による植民地統制の回復

 まあ、そのままです。

 ただし、学生の発表はこういった件にはかすりもせず。こちらからこういった論点を押しつけるのも何なので、ほのめかすにとどめておいた。