おまえはすでに死んでいる

 というわけで行ってきました、エリック・カズデンさんのセミナー。非常に面白かった。

 医学言説においてterminal diseasesのcureが放棄され、chronic diseasesのmanagementが支配的になったと。それによって、わたしたちの死はさん奪、さきのばしにされつつ、わたしたちの生は、そのような意味で「すでに死せる者」の生である、と。

 ジョック・ヤングが『排除社会』で論じている、保険統計学的なものとこの議論はみごとに合致する。ネオリベにおいて、保険統計学自由主義経済の偶発性をmanageするのだが、そのためにわたしたちの生のあらゆる局面を「リスク」としてみいだし、それを数量化しようとする。そこではわたしたちは、保険統計学によって「つねにすでに死せる者」として主体化される。(ということを、考えながらも質問はしなかったので飲み会で話したら、いたく同意してくれたもののヤングは名前さえ知らない様子。)

 カズデンさんが後半でそれへのオルタナティヴとして挙げていたゾンビ・ウォーカーの話だが、それよりも、ちょっとだけ触れていたflash mobの方が、この文脈ではしっくりくる。flash mobは、偶発性を排除しようとする保険統計学ネオリベに、偶発性をもちこむ行為であるから。*1

 とまあ、ペーパーまではいい感じだったが、id:melanie-ji-wooさんの質問にはちゃんと答えてほしかったなあ。

 駒場の魚の旨い居酒屋で打ち上げ。じつのところカズデンさんはフレドリック・ジェイムソンや、マサオ・ミヨシの教え子で、かつてのわたしのマサオ・ミヨシとの不幸な遭遇を知っているmelanie-ji-wooさんがいやがらせのようにミヨシ氏の話ばかりして、カズデンさんは彼を称賛しつづけるのでわたしはだんだん不機嫌に。なんだか、有名人いっぱい(KK氏とかKY氏とか)の飲み会だったが、知らんよそんなの、という感じで終電で帰宅。いや、いろんな意味で面白かった。

排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異

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  • 作者: ジョックヤング,Jock Young,青木秀男,伊藤泰郎,岸政彦,村澤真保呂
  • 出版社/メーカー: 洛北出版
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本
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 届いた徳永様の第四弾を聴きながら。

VOCALIST4(初回限定盤B)(CD13曲+ボーナストラック1曲収録)

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*1:というだけだと大変に能天気な話に聞こえるので付記。カズデンさんがゾンビ・ウォーカーに見いだす可能性というのは、徹底的に個人化された「すでに死せるものたち」が奇跡的な集団性を獲得する姿のアレゴリー(という概念がまた問題)なのだが、どうやってその集団性が獲得されるのかは、昨日のアウトライン的な話ではよくわからなかったので、今回の話のベースとなっている近著を待つか。