某業界誌の小稿を一気に書く。このブログでも書いてきたことの再編集という感じで、申し訳ない。ちょっと寝かしておいて推敲すべし。
それを書く上で当たったが、結局使わなかった本を棚卸し。
- 作者: Lisa Zunshine
- 出版社/メーカー: Ohio State Univ Pr
- 発売日: 2006/04/30
- メディア: ペーパーバック
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認知科学の「心の理論(theory of mind)」という枠組みを、小説を読むという行為に「適用」してみせたもの。「心の理論」というのは自閉症研究から出てきた説で、おおざっぱには社会的行動をとるためには、他者が内面の意識を持っているということを、言語だけでなくしぐさなどから推測し、しかるべきリアクションをする必要がある。その際の推測のための枠組のことを「心の理論」と呼ぶらしい。
重要な参照文献としては、ベストセラーにもなったピンカーの本。
人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (上) (NHKブックス)
- 作者: スティーブン・ピンカー,山下篤子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2004/08/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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なんというか、これらの一連の研究の問題点に一気に飛ぶと、観察する主体がどこまでも、あっけらかんと、「透明」なのである。原因があり、結果がある。観察と分析の精度を上げさえすれば、人間は「真実」にたどり着ける。この人たち、非常に単純な、幸福な世界に住んでるんだなあ、と、うらやましくなるくらい。
ただ、ピンカーの本はそのような、科学的=普遍的理論を構築することへのPC的禁忌のために、「風呂の水と一緒に赤子を流してしまう」ことへの危機感から書かれてはいるのであり、そのような批判は折り込み済みだが。それにしても「社会構築主義」の戯画化がひどすぎる。性差はすべからく言説的構築物であり、現実の性差は存在しない、その存在を証明しようとする生物科学はすべからく性差別的だ、などということは、批評理論の教科書を初めて読んで興奮しちゃった学生くらいしか信じてないのであって、そのような戯画化を行った上で批判するというのは、生産的ではなかろう。まあ、合州国ではその程度の知性で研究者になってガヤガヤやっている連中がいっぱいいるということかもしれないが。
ともかくも、この辺とグローバル資本主義の結託の問題、無視できない由々しき事態であって、あまりそういう話に反応してくれる人はいないので唇は寒いのですが上記の記事はそういうつもりで書きました。