口頭添削法と他律性

 卒論指導も佳境に。ここに来て、新たな添削方法を開発。いや、単に、原稿に書きこむのではなく、全て口頭で添削していくという手法。手を入れるべき箇所があまりにも多い場合は、口頭でやってしまった方が圧倒的に早いことに気づき、今日の午後はひたすらに「口頭添削」。

A Time for the Humanities: Futurity and the Limits of Autonomy

A Time for the Humanities: Futurity and the Limits of Autonomy

 ちょっと楽しみにしていた本が届いたので早速。うーん、「新潮」があと一回あればぜひこれを取りあげたかった。

 「人文学の危機」という、ほぼクリシェ化しつつある問題構成に対し、かなり根源的な視点で切り込む。実証的かつ実践的な「人文学論」はとりあえず「プラグマティック」なものと括って退け、本書が問題にするのは「ヒューマン」の観念そのものの問いである(みたい)。キーワードは副題にもあるfuturityとheteronomyということ。イントロダクションによれば「他律性」は単なる他者による決定のことではなく、未来という時間性と骨がらみのものであり、自律的に自己定立をする主体の限界とその向こう側を、予測不可能で想像不可能な未来というユートピア的時間性=他律性として定義し、そのポジティヴな側面を強調していこうということ(らしい。実際論集がどれほど共有された問題構成につらぬかれているかは不明)。

 イントロだけパラパラ読んでの直感だが、人文学の肝とはまさに(ここでいう未来性といった)「思考不可能なものの思考」である。一方で「ヒューマン」を思考可能なもの=管理可能なものへと取り込もうとする動きがある中で、他律性を「ヒューマン」の核として取りだそうという方向性には首肯する。各章を眺めてみても、ドゥルーズフーコーに始まり、レトリックと政治、精神分析といった主題を、Martin Jay, Ernesto Laclau, Jean-Luc Nancy, Rey Chowといった面々が論じており、これは楽しそう。

 とまあ、まともに読まずに書いているのでちゃんと読んでいきたいところだが、とりあえず必読書の匂いがするので、私のそのような直感を信頼するという無謀な向きにはお勧めしたい。