モダニズム空間

 Critical Quarterlyの'Modernist Spaces'特集をネタに研究会。

 Michael Levenson, 'From the Closed Room to an Opening Sky: Vectors of Space in Eliot, Woolf, and Lewis'は、これはもう大御所の余裕という感じ。Wyndham Lewisの絵画作品の変遷などは、知らなかったことなので勉強になるものの、「部屋」から「街路」へ、そして「空」(Modernist sublime)へ、というのはまったくオリジナリティのない話だし、特にModernist sublimeと空間という主題については、Fredric Jamesonの帝国主義論があるわけだから、それをスルーしちゃダメだろう。

 Becca Weir, '"Degrees in Nothingness": Battlefield Topography in the First World War.'この人の専門は南北戦争期のルポルタージュだそうで、この論文は第一次世界大戦の前線に出た無名の兵士たちの手記などを調べているあたりが面白い。戦場がもたらした新たな空間認識のテクノロジーとして、潜望鏡に焦点を当てる部分など、興味深いが、後半の文学作品の分析にいたってトーンダウン。思うに、戦争のもたらした空間認識の変容を論じるのに、「実際に戦場に行った作家」を扱ってしまったのが敗因だろう。

 Beci Carver, 'London as a Waste of Space in Eliot's The Waste Land 'は、今どきあり得ないくらいの内在的なEliot読解。門外漢にはついて行けない部分も。しかし、『荒地』はロンドンについての詩ではなく、「場所」と「場所」のあいだにこぼれ落ちるような「非-場所」についての詩であるということを、フロイト(=ハイデガー)によるanxietyの概念(fearと違い、対象をもたない不安の概念)を導きの糸に論じるあたり、もう少しつきつめればクリティカルな感じ。「非-場所」というアイデアは、昨今の「空間論的転回」からは抑圧されたものを論じる上で有効ではないかと直感するのだが……

 Lawrence Rainey, 'Office Politics: Skyscraper (1931) and Skyscraper Souls (1932).'これはねえ……。誰も知らない小説と映画の解説にほとんど終始しており、小説版と映画版の違いの説明が「大恐慌」であるあたりもそれほどスリリングとは言い難い。

 というわけで、全体としては残念な特集。「空間論的転回」が「常識化=凡庸化」したことをよく表してはいるのだが。