死者の放擲

 飛び石連休最終日。今週の授業準備で日が暮れる。その中で、

Mrs Dalloway (Penguin Essentials)

Mrs Dalloway (Penguin Essentials)

 これの「今週の範囲」を読んでいて、これまでこの作品はもう両手の指では足りない回数読んでいるはずなのに、冒頭の飛行機の描写に'Dropping dead down the aeroplane soared straight up...'という一節があり、はっとする(いまさら何を、という感じではあるが)。というのは、これが、'Dropping the dead down'に見えてしまったのだ。

 「真っ逆さまに急降下して……」であるところが、「死者を投げ落として……」と。

 当然、飛行機という形象は、第一次世界大戦で初めて殺人兵器として利用され、島国であるイギリスをおびやかしたのが、この小説では戦後のリベラルな平和謳歌のシンボルになっているなどという誰かさんの研究はあるわけだが、そのような意味での飛行機は、まさに大戦の「死者を投げ落として」、平和を多幸症的に謳歌する。

 死者を投げ落とすこと。死者を忘れること。これは人が生きる上で避けては通れぬ道である。それゆえ、いかに投げ落とすかということが、政治的情緒の備給を強力に受けるモメントになるなどということはいわずもがなであるが、もちろんこの小説の柱になっているのは「うまく投げ落とせない人たち」であって、云々、なんて話を今週の講義で延々としてしまったら、また「学生から遠く離れて」しまいそうであるものの、そうは言ってもこの小説、最初のシークエンスにすべてがつまっているわけで、それを話さないわけにはいかない。