お好みソースの味

 4日間帰省していて読めた本が一冊というのも寂しいかぎりだが、子供を連れて帰省するというのはそういうものか。

Modern Classics Down and Out in Paris and London (Penguin Modern Classics)

Modern Classics Down and Out in Paris and London (Penguin Modern Classics)

 オーウェルの長編は一通り読んだつもりだったが、これがまだだった。

 いやー、いい。生活費がないのでバイトに行きたいのだがバイトに行くための交通費がなく、千円借りるために友人の家まで延々と歩いた大学時代を思い出す。または、米がなくなり金もなく、台所にあった小麦粉を練って焼いてお好みソースを塗って食べた大学時代を思い出す。

 「そんな甘っちょろいもんじゃねー」と言われそうだが、実際甘っちょろくはあるのではなかろうか。語り手は、いつでも極貧の生活から抜けられるという感じがつきまとう。ロンドンで浮浪者生活をしながらも、新聞に書いた原稿料の話が出てくるあたり、語り手の二重生活の一面が隠蔽されているという感がぬぐえないのだ。

 これは、ありきたりの批判もしくは恫喝(オーウェルの「不実」を批判する)というよりは、これをルポルタージュというよりフィクションの一種として見た時の、構成の甘さの問題として言っているつもりである。やるなら、語り手の「意見」など抜きでひたすら(疑似)内在的に書けばいいのに、と。

 いやいや、そうすることれは構成の問題というより「不実になりきれない」オーウェルの問題なのか。