愚者の跳躍

 グランド・ツアーについて読んだり、石黒一雄さんを面白く読んだりした今こそ、E. M. フォースターが面白く思えるんじゃないかと思って、フォースター祭りを開催。

Where Angels Fear to Tread (Penguin Modern Classics)

Where Angels Fear to Tread (Penguin Modern Classics)

 なるほど、以前読んだとき(って、学部時代じゃなかろうか)より、はるかに面白い。グランド・ツアーの伝統における、「イタリア」という場、もしくは観念の重要性を考えるとき、20世紀初頭にイタリアに対する幻滅とその(疑問符付きの)回復が描かれるというのは非常に徴候的なわけだ。正典的モダニストが都市を歩く経験の新たな美学を模索する裏側で、イタリアへの幻滅を書いてみたり、カントリー・ハウスの没落と(疑問符付きの)保存を描いてみせたりする(『ハワーズ・エンド』)フォースターは、モダニズムの裏側をみごとになぞっている作家である。

 そんなことよりも、最後のジーノとフィリップの格闘を描きたかっただけかもしれないが。

 追記(余談):そういえば、アメリカの英文学者にイタリアかぶれが多いのはヨーロッパ的なものへの過剰な同一化だったりするのだろうか。ジョナサン・カラーはイタリアで「在外研究」してたそうだし、スティーヴン・グリーンブラットがどこかで書いていたのは、イタリアの田舎の風景に感激し、そこにいた「農夫」にたどたどしいイタリア語で「なんと美しい風景でしょう!」と言ったら、農夫は「都会の方がいいね」と答えたとか。