Writing for the Plot

 明日は研究発表。

 これほどすんなり準備できたのは初めてではなかろうか。証拠に、ブログで「うう」とか「うぐぐ」とか書かなくて済んだ。

 今回は少し触れるだけの、マーリーズの小説についてメモ。

Hope Mirrlees, The Counterplot. (1925)

 初版以降再版はないので、アマゾンにも当然ありません。当時はそれなりに読まれたらしく、イギリスとアメリカで出版された他、フランス語訳も出たらしい。

 イギリス北西部にあるらしき、プラセンシアという屋敷の一家をめぐる小説。主人公のテレサ・レインの内的独白が軸となっており、テレサの妹のコンチャの結婚、それにともなう国教会とカトリックの相克が大筋を構成している。正直、今読んでそれほどおもしろいものではないのだが、私はジェイン・ハリスンやヴァージニア・ウルフとの関連で、ほぼ「歴史的資料」として読んだ。

 テレサの中・上流階級的モラルに閉じこめられたセクシュアリティレズビアン的なそれも含め)の苦悩がテーマだといっていいのだが、それを表現する媒介となるのがデュオニソス/アポロンの対立であったりするあたりはハリスンの影響。

 一番注目しておきたいのは、劇中劇があること。テレサは小説を通して戯曲を書き続けており、最後にはプラセンシアでそれが上演される(小説の上では、戯曲の台本がそのまま埋めこまれている)。内容は18世紀スペインの女子修道院を舞台とするもので、その性的・冒涜的内容に身内の観客はあきれかえる。ただ、その戯曲はテレサにとっては日常生活で表現できない自らのセクシュアリティを芸術の形で表現するぎりぎりの試みである。

 内容はかなり異なるものの、劇中劇という形式上はウルフの『幕間』と同じなのである。また、テレサの母の形象が、全てを包み込む「母なる神」の形象となっている点は、ハリスンの『テミス』の影響を感じるとともに、『幕間』のルーシー・スウィジンの形象との共通点がある。びっくり。それとも、びっくりしているのは私の勘違いで、劇中劇小説は同時代に多くあったのだろうか。