形容詞との格闘

 新カテゴリの試み。

 翻訳tipsを思いつくままに書き留めておく、というのは、前々からちょっと考えていたが、私は研究はもちろん翻訳もかけ出しにしかすぎないわけで、えらそうなことも書けないなあと逡巡していました。でも、考えてみれば研究その他についても十分、分かった風なことを書き散らしているのだからまあいいか、と。

 日頃翻訳していて思いついた法則などを、メモ代わりに書いておくことにする。というわけで、諸賢にとっては既知の事項が頻出するかもしれないがご容赦いただきたい。「それ、こうした方がいいんちゃう?」というご指摘も大歓迎。

 初回は「名詞と形容詞の不思議な関係」。

 統語法通りには、'a blue sky'といえば「青い-空」→「青空」でいいわけだが、かならずしもそうではなく、「形容詞を名詞にしてしまった方がいい場合」がある。つまり、この例については「空の青さ」としてしまった方がいいことがある。今日出会ったのは、

Its English usage stresses individual liberty, minimum state intervention, free thinking, and religious nonconformity.

 最初itが指しているのは、'individualism'という言葉。直訳すると、

その英語の用法は、個人の自由、最小限の国家の干渉、自由思想、宗教的不服従を強調する。

 無生物主語の処理、nonconformityという単語の訳に対する不満など、いろいろ問題のある文だが、注目したいのはfree thinkingである。もちろん直訳は「自由思想」「自由な思考」なのだが、そう訳してしまうとここに列挙されているものの中で浮いてしまう。「自由」「干渉」「思想」「不服従」という並びになるので。また「individualという言葉は英語では自由思想の意味が強い」というのはおかしい。こういう場合、思いきって先ほどの処理方法を使う。すなわち、「思想の自由」としてしまう。他、いろいろいじって、こんな感じ。

英語の用法では、個人の自由、国家による最小限の干渉、思想の自由、信教の自由といった要素に重点がおかれる。

 実のところ、上記の理由からすると「国家による最小限の干渉」も、「国家による干渉が最小限であること」とでもする必要が出てくるが、これはあまりにもくどいので却下。

 この訳文の最大の欠点は、liberty, free, nonconformityを全て「自由」としてしまっていること。減点。

 これって、いわゆる「無生物主語」の文でよく起こることかもしれない。例えば、

The strong wind prevented us from going out.

強い風が私たちが外出することを妨げた。
→風の強さのせいで、私たちは外出できなかった。

 この場合は、もう一段階。

→風が強かったので、私たちは外出できなかった。