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ポストモダニズムとホロコーストの否定 (ポストモダン・ブックス)

ポストモダニズムとホロコーストの否定 (ポストモダン・ブックス)

 うーむ。もう少し期待していたのだが。このシリーズ、原書の「ノリ」と、参考文献表や気合いの入った解説のついた翻訳の「ノリ」がちょっと乖離しているような気がしなくもない(もっと軽いノリの本ではないかと)。

 それはともかく、イーグルストンのこの本は、「ポストモダニズムの極端な歴史相対主義ホロコースト否定論を生みだした」という批判への応答。反論のポイントは「ポストモダニズムの言うように、歴史は確かにナラティヴである。しかしその意味は、あらゆるナラティヴが歴史だということではない。ホロコースト否定論は歴史のナラティヴの文法からはずれているので、そもそも歴史ではない」ということ。これを、「アーヴィング裁判」を肴に論ずる。

 決定的に問題なのは、ポストモダン思想の擁護に興味のない読者は、どう読めばいいのか分からない、ということである。それ抜きだと、「反ユダヤ主義は悪である」という信念の表明しか残らない。困った困った。