20世紀を考える

20世紀を考える

20世紀を考える

 訳書が出ました(出ます)ので紹介します。トニー・ジャットの『20世紀を考える』です。以前、ジャットの『失われた二〇世紀』を共訳してNTT出版から出しましたが、それに続く翻訳となり、ジャットとは妙に縁が深くなりました。

 この本は、ジャットがALSに罹って執筆もままならなくなる中、歴史家のティモシー・スナイダーが聞き手となったロング・インタヴューをまとめたものです。ジャットの出生から現在(当時)までを時系列に従って語る自伝でありつつ、同時代の歴史・政治・学問の状況についても語っていきます。ですが、中欧ユダヤ系の家庭の出身(本人はロンドン生まれ)で、フランスの社会主義についての研究をする歴史家でありつつ、若い頃にはシオニズムに傾倒してイスラエルの入植地へ赴き、しかしそれに幻滅してやがてアメリカの論壇でイスラエル批判をするにいたるというジャットの人生そのものが、波瀾の20世紀をそのまま表現しているとも言えるでしょう。この本はジャットの個人の経験と20世紀の歴史が二重視された、一種の「精神史」である、ということについては訳者あとがきをご参照ください。

 ジャットの書き物につきあっていると、時々危なっかしいなあとは思いつつも、リベラルな知性というものがどういうものなのか、ということを強く感じさせられます。もちろん、「リベラルな知性」そのものが歴史的に限定的なものではあり、私たちの現在にそれを復元することはもはや難しいのかもしれません。また、訳者が言うべきではないでしょうけれども、ジャットの共産主義へのスタンスや反「理論」のスタンスには、必ずしも同意できない部分はあります。しかし、このような知性が存在したことを伝え、それがいかにして形成されたかを伝えることのできる訳業にたずさわることができてうれしく思います。


 *ところで、訳者あとがきと訳者プロフィールで、『失われた二〇世紀』を『忘れられた二〇世紀』としてしまうとんでもないミスをしてしまいました。原著のタイトルに引っ張られてしまったのですが言い訳にもなりません。ここにお詫びと訂正をいたします。