常にあらざる日

 非常勤。今年は文学の講読が一コマあり、『ダロウェイ夫人』を。やはり専門は力が入って生き生きとしてしまう。学生置き去りにして突っ走ってしまったのではないかと反省。

 id:takashimura氏の仕事と、id:hidexi氏のストローブ=ユイレに関するエントリーに刺激されて観る。

 ブレヒトの『アンティゴネ』改作を、シチリア島はセジェスタの古代円形劇場の遺跡を舞台に演じたもの。つまり、ギリシャ悲劇の改作の「演劇」を、古代劇場の遺跡を舞台に映画にしたという、さまざまなジャンル、メディアの折り重なった作品になっている。なんといっても面白いのは、撮影時の偶発的な自然条件が、画面に侵入してくるところであろう(実際どの程度「偶発的」なのかは分からないが)。冒頭でクレオンが台詞を述べている背後の、フォーカスの当たっていない遺跡の岩の上を這うトカゲ。太陽光や風の変化。さらには、後半で、クレオンがアルゴスへの侵略戦争ブレヒト版ではアルゴスの鉄鉱山の略奪を目的とするものとされている)を正当化する台詞のカットでは、それまでにない角度で劇場のある丘から見える遠景が映っており、そこには現代の高架ハイウェイが映り込んでいる。いちいちこういった要素を意識させるあたり、ブレヒトの「異化効果」をかなり忠実に実践した映画であるとも言える。それが効を奏して、演劇的緊張感に満ちあふれた映画になっている。

 突然、不思議ちゃん発言をしておくと、『神聖喜劇』は現代の『アンティゴネ』かもしれない。いや、そんなに深遠なことを言いたいのではなく、「法の徹底」が法を転覆するというか、原理主義を徹底的に演ずることによって、その原理によって立つ権威の足下をすくうというか。