トラウマのある本

 独身者よ、飲み会で盛り上がってとても楽しそうな電話をよこすのは、ありがたいのだが、止せ。

 パパより。

戦闘美少女の精神分析 (ちくま文庫)

戦闘美少女の精神分析 (ちくま文庫)

 「研究室には置けねえよ」で有名なこの本。文庫化されたのを機に、初めて読みました。以前斎藤環宮崎駿論を読んで、セクシュアリティに「還元」するその身ぶりはどうなんだろうと思っていたが、そこはラカン派、ここで述べられているのは基本的に「セクシュアリティへの還元不可能性と、還元不可能であるのに/あるがゆえに根源的であるセクシュアリティ」である。

 まあとにかく面白いのであるが、面白い本にはそれこそ「トラウマ」があるものなんだなあ、と。

 この本については、そのトラウマとは日本の漫画・アニメを論ずる際に対位法的に取りあげられるヘンリー・ダーガーであろう。おそらく本書は、著者の「ダーガー体験」というトラウマの反復によって構成されている。その反復は、当然同じものの反復ではなく、日本のアニメというずらされた(かならずしもダーガーとの必然的関連のない)対象による反復である。「萌え」の感覚が結局よくわからないという著者は、それにも関わらずダーガーの絵に発情してしまったのだろう。その説明のつかないセクシュアリティを、アニメに転移させて反復し、徹底操作する。本書がもし、ダーガー論だけだったり、アニメ論・おたく論だけだったりしたら、つまらない本になってしまう気がする。素朴実証主義的には結びつかない対象への跳躍は、本のトラウマのなせる技ではないか、そして少なくとも私に知的刺激を与えてくれるのは、そのようにトラウマを抱えた本ではないか、そんなことを考えた。