- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 12345
- 発売日: 2004/09/07
- メディア: 単行本
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村上春樹『アフターダーク』を読了。読了というか、2時間程度で読める量。
なんだが、「ちょい遅れぎみ」のものばかり読んでるような。
他の評は読んでないけど、「私たち」という亡霊のごとき語りの(というか、それ自体語り手によって書き込まれた)視点とか、現在時制の語りという、形式面が問題にされそう。
モダニズム文学を専門にする者にとっては、むしろ「なつかしい」部類に入る文体実験である(さらに、それを自意識的にパロディー化したポストモダニズムである、といった議論もありそうだが、興味はない)。
おそらく、それらは純粋に形式上の問題として考えても面白くはなく、この小説が「従軍慰安婦」の歴史とその記憶を主題としている点と、「私たち」という、スペクタクル的・映画的視点(場合によっては窃視的視点)との関係において、興味深いだろう。
村上作品における暴力には一つの典型があって、それは「分身による暴力」というもの。つまり、暴力は他者が行うものではなくて、ひょっとすると自分が夢遊病のように、知らぬ間に行ったものである(例えば『ねじまき鳥クロニクル』)。したがって、暴力に対する倫理的価値評価はなされず、ひたすらそれが「自らのもの」である可能性がほのめかされ続ける。それを従軍慰安婦という主題(って、断言してるけど、本当はかなり遠回し)に当てはめたのが新しく、挑戦的なところだろう。
しかし、過日の『ららら科學の子』といい、「中国」が文学の主題に大きなプレゼンスを持ち始めているのは特徴的かも。