東京に行っていた間、空き時間は喫茶店でひたすら本を読んでいたのだが、
- 作者: 由良君美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1986/05
- メディア: 文庫
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これは研究者を志したころに読んだと思うのだが、若さゆえに(まだ十分若いだろう、と言われそうだがそういうことではなく)「ヘッ」と思った不明を恥じる。
多分そのころは、「かけがえのない個」とか言っちゃってるあたりにそう思ったのだろう。また、「拝外と排外」をともに否定してハイブリディティを「日本人の本質」としてしまっては、結局本質主義じゃん、などと鬼の首を取ったように考えていた。批評的言説のポジショニングというものが分かっていなかったのだなあ。最初の出版は1975年だということを考えれば。
それはともかく、最近気になる「第三の文化」言説はここですでに出そろっているではないか。最初の章が「人間──この言語的動物」であり、終章(付録は除いて──ただ、付録が非常に面白いのだが)がエリアーデ論になっているという構成が、その確信を加速させる。
脳科学言説における「脳」は、ある局面では科学的に記述可能な対象ではなく、超越論的な否定項となる可能性をはらんでいる。由良君美が言い放つ「個」にもその可能性はないだろうか。そういうことである。